Marcus Miller "AFRODEEZIA"

2011年の"Jazz Funk Africa!"開催から約3年半後の2015年2月18日、Marcus Millerの新作アルバム「AFRODEEZIA」CD版が世界に先駆けて日本で発売されました。

 

マーカスといえばベースとバスクラリネットですが、今回登場する楽器には、ゲンブリ(ベースの元祖)、コラ、ジェンベ、カリンバなど、アフリカの伝統楽器が入っており、カルカバ(鉄のカスタネット)のアレンジ音や独特のリズム、マンデスタイルのギターリフなど、モロッコのグナワ音楽や西アフリカの音楽要素がふんだんに盛り込まれており、しかもそれぞれの楽器が現地のアーチストたちによって演奏されています。

またマーカス自身もゲンブリやカリンバを演奏しています。

曲調は北・西アフリカから南アのゴスペル、南米のサンバ、カリブのカリプソ、ニューオーリンズデルタ、デトロイトのモータウン・・・と、それは奴隷貿易ルートとともに音楽の発展の軌跡をたどるかのような構成です。そしてその各々の曲には実はマーカス自身が慕っていた人に対する思いや、社会に対するメッセージが込められており、アルバム全体として「音楽の力」を最大限に生かした作品に仕上がっています。

 

生の楽器を、その楽器の本場に行って現地のアーチストにレコーディング参加してもらう。それがあたりまえと言いたいところですが、楽器の音がなんでも電子化され、お手軽に作られたCDが氾濫する昨今、こんなに制作過程に手をかけたアルバムは非常に稀ではないでしょうか。ちなみにこのアルバムは、現在ザンビアで困窮している人々に住宅を供給する活動をしているマーカスの30年来の奥様に捧げられたものでもあるとのことです。収録曲”B’s River”はこの奥様がザンビアで見た川を「言葉で言い表せないほど美しい」と仰ったところ、マーカスが「言葉で表現できないなら、音楽で表現しよう」と思った、というところからできた作品で、この”B”は奥様の名前「Brenda」の”B”と思われます。

 

マーカスは昨年モロッコのグナワフェスティバルに行った際、アフリカにサンバやアフロキューバン、ファンクなどのルーツを発見したことや、ナイジェリアのハイライフなど、アメリカの音楽が逆にアフリカの音楽に影響を与えたことなどを知りインスパイアされたとのことですが、彼はそれらをリスペクトしつつ、彼独自の音楽世界に見事に再現しています。

 

下は、今回日本でのCD発売日までに間に合わなかった、マーカスが書いたライナーノーツの一部です。
 

"Joy is an element of music that I wanted to stress with this album. I don't mean "not a care in the world" joy. I mean joy despite difficult circumstance; joy despite sometimes horrible circumstances. This is what these rhythms that began in Africa and traveled across the Atlantic to South America and the Carribean provided - a way to put aside pain and suffering and celebrate the joy that music can bring. "

『今回私が強調したかったことは、音楽の「喜び」という要素なんだ。ただ、「喜び」といっても周りを無視した独りよがりの喜びではなく、苦しい環境や恐怖にさいなまれている状況であっても見出す、そういう喜びなんだ。これがアフリカから(奴隷貿易によって)大西洋を渡り、南米、カリブ諸国などを経て伝わってきたリズムであり、困難や苦悩を忘れさせ、音楽がもたらしてくれた喜びなんだ』

 

“Music has played a vital role in our ability to persevere. When things seemed hopeless we could always turn to music to find solace, hope and even joy. That's why the music that has emerged from this slave experience: spirituals, blues, dixieland, jazz, gospel, r&b, funk, rap, etc. has so much emotional content. It's because this music carries our story. Many elements of our story exist solely in our music - because for a long time that was the only way to tell it. Writing was forbidden, openly taking about the past was forbidden. So these stories are hidden in the rhythms. In the same way that African tribes could communicate through drums, the story of the African-American journey is contained in the music. Don't listen to the words, sometimes they tell the story, sometimes they don't. But the MUSIC always tells the story. If you hear a beat and you find yourself moving - even if you don't want to, that's because you are hearing the story - whether you are aware of it
or not. That's why songs with lyrics that seem simplistic, basic, sometimes ridiculous still grab you. It's because the message is in the notes not the words.
And this is why we can travel around the world and communicate with people whose native languages we can't speak. It's because this music is its own language and just about everyone in the world understands it.
So this album is about the incredible journey of rhythms and melodies that originated in Africa and have exploded into a "dizzying" array of styles and genres that have changed the world.”

『音楽は我々(黒人)の忍耐力を支える大きな役割を果たしてきた。「もうだめだ」と絶望したときでも、我々はいつも音楽によって心を癒され、再び希望を得、喜びすら抱くことができた。だから、黒人霊歌、ブルース、ディキシーランド、ジャズ、ゴスペル、R&B、ファンク、ラップなどの、奴隷たちから生まれた音楽には、非常に大きな感情面の要素が含まれているんだ。これらの音楽は我々の話を紡いできたからね。我々の話のほとんどは音楽の中にだけ存在するんだ。なぜかといえば、それが我々にとって唯一の表現手段だったから。書くことは禁じられ、過去について公に語ることも禁じられてきた。だから我々の話はリズムの中に隠されているんだ。

同様に、アフリカの部族たちはドラムでコミュニケーションをとることができた。アフリカン・アメリカンの旅の歴史は音楽の中にあるんだ。

言葉を聞かないでほしい。言葉では、語られることもあれば、そうでないこともある。でも、音楽は全てを語っている。もしあなたが聞いたビートに体がノってきたら(たとえあなたがそうしたくなくても体が自然と)、それはあなたがその話を聞いているということだ。あなたが気付いていようといなかろうと。歌詞が単純だったりつまらなかったりばかばかしかったりしてもなぜか好きになる曲があるけれど、それは実は、曲のメッセージがその歌詞ではなくその音にあるからなんだ。

そしてこれこそが、我々が世界中を旅できること、たとえ我々がその国の言語を全く知らなくても人々とコミュニケーションができるということの大きな理由だ。音楽が世界共通言語だ、というのはこういうことなんだ。

このアルバムはアフリカから世界へと、様々なスタイルやジャンルへと目まぐるしく広がって世界を変えてきた、すばらしいリズムやメロディの歴史的な旅のアルバムなんだ。』

(拙訳:平山みどり)

 

これはまさに私が主催したイベント"Jazz Funk Africa"にてアフリカの音楽を知ってもらうとともに、アフリカから現代にいたるブラックミュージックを通して皆様に伝えたかったことでもありました。

 

私がマーカス・ミラーという人を知ったのはそれほど昔ではありません。2007年、FM横浜で流れていたEarth Wind & Fireの”Brazilian Rhyme”のアレンジがあまりにもよくてそのCDを探したらマーカス・ミラーのTALES"というアルバムの収録曲でした。これが、私が「マーカス・ミラー」として聴いた初めのアルバムでした。

このアルバムの音のすばらしさと共に、選曲から彼の音楽に対する姿勢に大変共感し、このアルバム一枚で「私はこの人を好きになるに間違いない」と確信しました。それ以来彼の音楽には裏切られたことがありません。

その彼が、今、彼のアルバムの中で、私が"Jazz Funk Africa!"で皆様に伝えたかったことを、全世界に伝えてくれている。

何て嬉しいことでしょう。

 

2011年3月に起きた東北の大震災による停電、交通機関の麻痺、放射能の恐怖などの中、全国のありとあらゆるイベントがキャンセルされ、中には倒産した音楽エージェンシーなどもありました。

そんな中、恐ろしく、苦しい思いをしたけれど、"Jazz Funk Africa!"イベントを諦めずに実行してよかった、と今は心から思います。

 

また、このアルバムのレコーディングアーチストの中には、2011年の外務省主催アフリカンフェスタで招聘されたCheick Amadou Tidiane Seckのバンドメンバー、Guimba Kouyatéがギターで参加しています。彼とはアフリカン・フェスタやその後のパーティでも会っていたので、これも意外な偶然でした。

 

そしてこのアルバムにはスティールパンが入っている"Son of MacBeth"という曲があります。今回来日するバンドメンバーにはパニストは入っていませんでした。シンセでやるのか、またはこの曲は演奏しないのか?できれば聴きたい、そして、シンセではなく生のスティールパンで。

そこで私は、"Jazz Funk Africa!"でも活躍し、昨今は同イベントで出会ったTabu NgongoやJP SenseyとともにAfrican Connection Bandも主催しているスティールパン奏者、Tony Guppyさんが参加できたらどんなにすばらしいだろう、と考えました。トニーさん自身が以前、マーカスと演りたい、と言っていたこともあり、トニーさんの音楽性や音楽レベルなど、マーカスと対等な演奏は十分できると思いました。そしてマーカスのマネジメントサイドに日本公演でのトニーさんの参加を提案したところ、マーカスから「それはありがたい」と参加の同意を得ることができました。

実はTony Guppyさんの名前は、2013年にマーカスが来日した際、楽屋でマーカスにRalph MacDonaldの曲”Just The Two Of Us”の歌の意味についてお話したときに既に一度伝えていたのですが、そのトニーさんを今回そのRalphのトリビュート曲で共演させることになろうとはこれまた夢にも思いませんでした。

来日のたびに会場を満席にする世界のマーカス・ミラーのバンド構成を変えるのはほぼ無理だろうと思っていましたが、“Jazz Funk Arica!”イベント開催を決心した時と同じく、「やる前に諦める必要は全くない」と思っての提案でした。

 

Tony Guppyさん、2/19〜2/23、青山のブルーノート東京で5日間、10ステージに渡り"Son of MacBeth"のみならずMy one and only Love (jazz ballad)、Papa was a rolling stone (The Temptations)、Come Together (The Beatles) なども演奏し、すばらしいソロやマーカスとのジャムで、5日間にブルーノート東京に来場したおよそ延べ3000人の聴衆を楽しませてくれました。

 

世界中で絶大な人気を誇るマーカス・ミラーですが、彼の音楽が良いから、かっこいいから、スラッピングがしびれるから、マイルスに見出されたから等々、皆さんそれぞれお好きな理由がおありと思います。このアルバムは、そんなマーカスファンの方々に、アメリカや中南米の音楽に比べてあまりよく知られていないけれども、それ無しにはそれらの音楽はなかった「音楽の源流」であるアフリカの音楽を知り、音楽そのものの楽しみ方を大きく広げて頂けるアルバムだと思います。

また逆に、いままでジェンベやバラフォン、コラなどアフリカントラディショナルな楽器に専心されていて、アメリカのR&Bやらジャズやらヨーロピアンクラシックやらにはあまり興味がなかった、という方には、「音楽」というものを、ジャンルや時代の垣根を軽々と飛び越えて感動させてくれる「芸術」として楽しんでいただける一枚かと思います。

 

"Jazz Funk Africa!"ではアルバムは作ることができませんでしたが、"Jazz Funk Africa!"のコンセプトに限りなく近いこのアルバム「AFRODEEZIA」をどうぞ買って、聞いてみてください。

 

尚、上記マーカス執筆のライナー・ノーツですが、ヨーロッパでの発売にはCD同梱に間に合う予定だそうです。マーカスは現在これを毎日編集しているとのことで、いずれ公式サイトに掲載される予定のようです。今回の掲載にあたっては、吉岡正晴さんと共にレコードレーベル担当者様とマーカス本人に伺い、許可を頂きました。

 

“Save the muwsic基金”プロジェクトは一向に進んでおらず、2011年のイベントの直後に、最後の血の繋がった家族だった母が認知症を患い翌2月に亡くなり、覚悟していたはずが想像をはるかに上回る悲しみからいまだに抜けられないでいる私に、発売前にAFRODEEZIAの音源を聴かせてくださった吉岡さん。あの時泣いていた私は、この音源を聞いたとたんそのすばらしい音楽世界にもっていかれ、涙も一気に乾いてしまいました。
本当にありがとうございました。


敬愛する音楽家との語らい、音楽を真に愛するすばらしい方々との出会い、そして今回のアルバム「AFRODEEZIA」のリリース・・・

思ってもいなかった嬉しい出来事が次々と起こり、私はもういつ死んでも全く悔いはない、と思います。

 

MARCUS MILLERS AUTOGRAPH ADDED TO JAZZ FUNK AFRICA! T-SHIRT
残っていた"Jazz Funk Africa!"Tシャツ。
アフリカ大陸の南端沖(一番下)にMarcus Millerのサインが加わりました。


AFRODEEZIA T-SHIRT
"AFRODEEZIA"のTシャツ。
"The musical journey of slavery from Africa to your soul."
(アフリカからあなたの魂へと続く奴隷の音楽の旅)と印字されています。


 

音楽で私を育ててくれた亡き母と、渡米中危機に面していた私を助けてくれた黒人さんたち、精神を病んだときに救ってくれた、アフリカから始まる黒人音楽、それらに心から感謝しつつ。

 

2015年3月7日

平山みどり
 

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